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1、僕は普通の高校生だった。
僕は普通の高校生だった。よく目にする、「俺は落ちこぼれだった」「ワルだった」 とかいうタイプとも、僕は当てはまらず、かといって「僕は天才的に頭が良かった」「全国模擬試験でトップとった」という様なタイプとも、まるで違った。この時までは、ごくありきたりの高校生だった。本当にどこにでもいる、普通の高校生だった。
この話はここから幕を開ける。そんな普通の高校生が、大きく変わっていく。
「ワル」や「天才」という様な人なら、高校時代、それよりもっと前から、人生ずっとドラマだ。恋愛、ケンカ、友達、青春、何やっても、彼らはドラマだ。僕はそんな様々なドラマを、「本」や「TV」で見るくらい。そんなのを見ては、「憧れの世界」「非現実」そんなイメ−ジを抱えた。「すげぇな」いつもそう思っていた。
この時まで僕は、「自分もあんな青春してみたい」そう心の中で思っている、いわゆる「フツ−人」だった。しかしまさか僕にも、そんな「ドラマ」が待っているとは、思いもよらないでいた。 そんな僕を大きく変えたのは、「受験」だった。
日本という国では、「受験」は「個性を奪うもの。真の人間性を奪うもの。くだらない。」などと、マイナスイメ−ジで語られることが多い。しかし僕は、そんな「個性を奪う、くだらない」ものによって、初めて自分が他人より一歩抜けだし、「自分が何者であるか」考えることが出来た事は、嘘偽り無い。あくまで僕の人生の大きなタ−ニングポイントは、そんなくだらない「受験」だった。
僕の高校は東京にある私立高校。レベルは中の上と、やはり「普通」の高校だった。そんな楽しく平和な毎日を送り、平凡であった僕の人生が、ある「大学名」との出会いによって、大きく動き始める。 その名は「国立神戸大学経営学部夜間主コ−ス」、つまり神戸大学二部である。 ただその名門にぶらさがるかの様に、こっそりと「夜間コ−ス」が設置されている。偏差値たった英語1教科で偏差値60。偏差値的に言うと、大体昼間に入学する勉強量の三分の一で済むわけだ。しかも卒業証書には、「神戸大学卒業」としか書かれない。つまり社会的にも、「夜間」であることがバレないのである。
僕はこの話を、当時通っていた塾の担任から聞かされた。忘れもしない、高校3年生の暑い夏の日だった。その時、僕は動揺していた。 中学まで関西に住んでいた僕にとって、「神戸大学」というブランドの輝きは、眩しすぎるものだった。東京で言えば、東大の次に早稲田慶応という様に、関西では京都大の次に神戸大学として、その地位を確立している。親達子供達は誰もが神戸大学に憧れ、近所でも「ダレダレさんの息子さんが受かった」という噂は、瞬く間に広がり、羨望の眼差しで見られた。「昼間」の神戸大学合格など、今のこんな僕には「夢」の様な話である。
ところが信じられないことに、「夜間」ならば、その栄光を現実的に掴む事が出来る、そう分かったとき、僕の価値観が大きく崩れ始めた。 これから先、何事もなく僕は平凡に人生を送っていくのだと思っていた。ところが目の前に、「エリ−ト」という輝かしい道が現れたのだ。僕の偏差値は全く平均の50程度。ただ英語1教科くらいだったら、60まで上げるのには無理はない。時間は、あと半年近くある。
一流とは言えない僕の様な「普通」の偏差値で、誰からも尊敬される「一流大学」に合格できる、こんな夢みたいな話があるのだ。僕の心の中で、醜い人生の本音がざわめきだした。「自分の夢、やりたい事って何だろう」、こんな綺麗事はどうでもいい。そんな事よりも「最高のブランドを手にして、人からほめられたい」、ただそれだけだった。「神戸大学夜間」、この名前を聞いたとき、僕はそんな本音に気付いてしまった。今だったら、普通の人生から、誰からも羨ましがれる人生へと乗り換えられる。そう考えると、僕はもう何も見えなくなっていた。
「偏差値」も確実にブランドだ。そしてやはり人間、ブランドが大好きなのだ。「偏差値」ブランドは憧れのまとながらも、バッグや時計などと違って、「偏差値」は金で簡単に買えず、相当の努力をしなくちゃ得られない。だからこそ、みんなだんだん妥協してあきらめていく。努力したくない分、楽したい分、志望の大学を下げていく。ただ卑屈になれないから、そんな自分を肯定したいから、怪しい「ヤリたいこと」をでっちあげて、「偏差値よりもこの大学を選びました」などと収まるケ−スが多い。
名前を得るためだけに、僕は神戸大学夜間に入学した。付属大学への進学を辞退し、「平凡な人生」を捨てた。冷静に考えれば、「神戸大学夜間」というのは、数ある夜間大学の中で、偏差値的には日本トップであることは間違いない。もちろん「夜間」での話だが。
つまり「神戸大学夜間」に入ってくる学生というのは、別にそこまで頭が悪いわけではなく、ただそれでも「デキる」という訳ではない。「神戸大学」の名前につられた、偏差値的には「中の上」なものばかりなのだ。だから問題なのだ。
「定時制の高校」なら、正直偏差値的にはそこまで高くない。しかしこの「神戸大学夜間」というのは、「定時」なのに偏差値はそこそこ高いのだ。この「日本トップの夜間」では、様々なコンプレックスに溺れた、とんでもない連中がたくさんいた。それはそういう特殊な環境ゆえなのかもしれない。
ついに僕のドラマが幕を開けた。この「日本一の夜間」という特殊な環境が、少しずつ全てを狂わせ始めた。皮肉なことに、僕の本当の意味での「受験」は、ここから始まったのだ。
関連リンク
- 神戸大学
- この大学が物語の舞台です。。。今年目指している人はいるかな?
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