神戸大学1年目(1999年)

神戸大学2年目(2000年)

巻末コーナー

3、夜間はクサい!?

そんな2重生活の中、最初の模擬試験がやってきた。現役の貯金もあり、英語は67という偏差値をとれる様になっていた。続いて国語、偏差値は67。問題ない。最後に数学だが、これは苦戦した。やはり基礎が出来ていない。偏差値59。まだまだ一年間頑張っていこう。こういうところだろう。

この模擬試験の結果を、「話題のタネに、、、」と軽い気持ちで大学の連中に見せてしまった。しかしこれがおおいにまずかった。

通称「王将」というヤツに、まず見せてみる事にした。彼は龍国大学(偏差値50)から仮面浪人して、この「夜間」に入ってきた人で、「この神戸大学夜間にはい上がってきた」ということに誇りを持っていた。当然といえば当然なのかもしれないが、王将にとって、僕らの「仮面浪人」「模擬試験」の話はおもしろくない。僕達が王将の入ってきた「神戸大学夜間」を否定しているからだ。「この夜間にはいたくない、他の大学に行きたい」などという僕の考えは、彼を不快にし怒らせてしまった。僕をイヤな目でにらみつけると、彼は関わりたくないと言わんばかりにサッサと行ってしまった。

僕達の仮面浪人の噂は瞬く間に広がった。全員いい気はしなかったらしい。今考えてみると当然なのかもしれない。しかし大学生というものの姿が少し見えてきた。僕は大学生になったら、僕達みたいに仮面浪人じゃないかぎり、「偏差値」という概念はなくなるものだと思っていた。

もちろん受験では「偏差値」は目標だが、大学生となればそんなものから開放され、大学で勉強を極めていくもんだ。別に僕達が「偏差値が高い大学に行きたい」といっても、みんな「へぇそうなんだ」という位で、さほど気にしない僕は思っていた。

しかし現実は違った。彼らはイタク気にしていた。「もう一回受験するんだって?」と聞いてくるヤツもいたし、陰で「仮面浪人生」と噂していたらしい。その表情にははっきりと「良くは思っていない」というのがにじみ出ていた。そんな事は、ニブイ僕にでもはっきりと分かった。

こんな話がある。僕達の友達に「バクダン」というヤツがいた。彼は同期の夜間生だ。彼は教科書を買うため、大学の教科書売り場に行った時のことだ。そこで彼はショッキングな出来事に出会う。

売り場では、昼間学生用と一緒に夜間学生用の教科書を売っており、レジごとに「昼間・経済学部」とか、「昼間・経営学部」とかフダを貼って、学生達は自分の学部ごとに並んで買うことになっていた。ところが当然「昼間」というコ−ナ−があるんだから、「夜間」というコーナーもある。そこでバクダンは、その夜間のレジに並んでいた。そうしたら、隣の「昼間」の列に並んでいた女の子達が、バクダンの方を見て、「あれ夜間の学生だよ。夜間はクサイ。」と話していたらしい。

もちろん大声で聞こえる様に言ったのではない。彼女達は仲間同士で話していたのだ。しかしそんなショッキングな話は、いくら大きな声ではないとはいえ、バクダンには否応無く耳に飛び込んでくる。彼はこの一件でえらくショックを受けてしまった。「夜間はクサイ」。この言葉は本当にキツい。僕もこの話を聞いて、本当にショックを感じた。

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彼女達が言うには、夜間はまず昼間と違って偏差値も低く、そして何より普通の大学生でなく、夜に活動する。昼間の学生が帰るころ、サ−クル活動が始まるころ、コンパで盛り上がっているころ、夜間の学生は登校し、授業を受ける。こんな僕達夜間生の暮らし、身分が「クサイ」と感じているらしい。

確かにこんなヒドイこと、差別的なこと考えている昼間の学生はそうたくさんはいないだろう。しかし、そう考える学生達がいてもおかしくないという事だ。

彼らは昼間の神戸大学にプライドを持っている。当然だ。偏差値も高く、なおかつ爽やかな、絶対自慢したい学校である。そんな神戸大学にあこがれ、苦労して入学したのに、そこには同じ神戸大学なのに偏差値も低く、自分たちよりも簡単に「夜」に入ってきた連中がいる。認めたくない。こう思う連中も少なからずいるだろう。僕だってもし昼間で入学してきたら、これと同じ「認めたくない」という感情を、「夜間」に絶対抱く。昼間の神戸大学に入学するのに、苦労すれば苦労するほど、そう感じるだろう。

こうなると夜間生の方は必然的にコンプレックスを抱く。もしかしたら偏差値が低くても、昼間の大学に入学した学生なら、「まわりも全員バカ」という事で、誰もコンプレックスを抱かないかもしれない。しかし神戸大学夜間では話が違う。キャンパスのありとあらゆるところに、偏差値が高く、そして大学生活を爽やかに送る「昼間の神戸大学生」がいる。極めて特殊な環境だ。嫌でも「夜間は普通とは違う」と実感出来てしまう。

「君どこの大学?」って聞かれたら、僕達夜間生はまず「神戸大学」と答える。そうすると大抵は「へぇすごいね」と褒めてくれる。しかし罪悪感に耐え切れず、「夜間だけど」ともらしそうになる。ただ自分を低く見られるのがイヤで黙っている。こんな経験を大抵の夜間生は体験している。だから心の底から、「正々堂々自分を紹介したい」って考える。 つまりほとんどの夜間生はこうしたコンプレックスなのだ。つまり大学生になりたくても、なりきれなかった者達なのだ。 僕はそれにピッタリあてはまる。しかし彼らと僕が明らかに違ったのが、僕は正々堂々そんなコンプレックスを認め、「抜け出たい」と行動をおこしたという点だ。

ところが夜間の学生のほとんどは、そんなコンプレックスを抱えながらも、全然行動に起こさない事が、この時分かった。 僕はこの夜間に絶対居たくなくなった。「ここに居るわけいかない。抜け出したい。」この気持ちがより一層強くなった。

そもそも大学との両立をはかって、全力投球で受験勉強に打ち込めることが出来るのだろうか。本気で確実に抜け出すならば、大学なんかに通っている場合ではないだろう。受験に集中しなければだめだ。もしこのまま大学も保険として授業を受け続け、しっかりと単位なんか取っていたら、受験の方が失敗するかもしれない。僕はそう思う様になっていった。

僕は大学を休むことにした。親には休学ということで許してもらった。来年受験に失敗したら戻ってくるという条件で。でももちろん戻ってくる訳にはいかない。絶対合格。この言葉が胸に突き刺さった。

関連リンク

龍谷大学
王将は物語の中間にもう一度登場します。

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