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8、カズヤ合格に嫉妬!A
彼は僕に最大限の気を遣っていた。だからずっと電話に出なかったのだ。一生懸命頑張った仲間を置いて、自分だけが受かってしまった。僕は動転していた。何を彼に言っていいか分からなかったし、何も自分の中で整理できていない。ただ「ゴメン・・・。」という彼の言葉が、僕に突き刺さった。
僕はもう彼とは電話が出来なかった。「おめでとう」そう告げたあと、僕はすぐに電話を切って、ベッドの中に飛び込んだ。親友の合格だ。それも単なる親友ではない。この一年間何をするのも一緒だった、家族以上とも言える関係だった。その彼と僕との間に、今とてつもない差が開いたのだ。昨日までは確かに一緒だった。イヤ、一年間ずっと一緒だったのだ。
しかし今は違う。僕は惨めに「夜間に残るもの」なのに、彼は「夜間を抜け出す、光り輝いた勝者」なのだ。 もう誰もいなくなったのだ。カズヤがいないのだ。 「落ちても悔いはない」こんなこと、もう言えなかった。事情が一変したのだ
この時改めて、僕は「何で僕が落ちたのか・・・。」と激しく思った。そして親友カズヤに対して、狂おしいほどの嫉妬を感じた。 僕は眠れなかった。その時、僕は泣いていた。初めてだった。 不合格の時でも涙は出なかった。だけど今はあふれる位の涙が出てきた。一晩中、僕は泣きながら自分の惨めさを痛感したのだ。
親友の合格だ。何で喜べない、そう思うかもしれない。そう、僕は最低だったのかもしれない。しかしどう言われても仕方ないのだ。僕は彼に狂う程嫉妬し、そして何よりこんな惨めな自分に絶望していた。こんな自分を見たのは、初めてだった。ただどうにもできない。これが僕の真実の姿なのだ。その時から、僕の前でカズヤは、「絶対的な勝者」として映るようになっていた。もう今までのような友達ではいられなかった。
久しぶりに会ったシンジさんと一緒に、僕はカズヤの引っ越しを手伝うことになった日のことだ。仲間だということで、引っ越しを手伝うのは当然だったが、この時はつらかった。彼のアパ−トに行くと、そこには「もういらない、必要ない」と言わんばかりに、使い終わった参考書や過去問題集、予備校のテキストが「ゴミ」としてヒモで縛ってある。そしてその横には早稲田政治経済学部の入学書類が置いてある。
普通の人だったらこんな風景、別に何とも思わないだろう。しかし僕には辛かった。胸がつかまれる様なそんな苦しい気持ちになった。 受験を終え、勝利者となった彼の立場と、受験に失敗し、敗者である僕の立場を痛感したのだ。
彼は僕に気を遣っていた。そんな参考書のたばを見ては、「僕はバカだったからこんなに参考書を使ったんですね。」とか言ったり、当然話題に出るはずの、これからの東京での生活という事に関しても、「禁句」として一切話さなかった。それだけ気を遣ってくれたのだ。いつもは何でも話せたのに、今は何も話せない。一緒に笑うことだってできない。 僕ははっきりと感じた。カズヤと僕は、もう住む世界が違うのだ。 ずっと一緒だった。本当の親友だった。しかし今では、彼とはもう住む世界が違うのだ。現実だ。これが現実だった。 彼が気を遣えば遣うほど、僕はこの現実を痛感した。
神戸大学の教務係で、僕は夜間への「復学届け」を出した。そして彼は「退学届け」を出した。もういたたまれない気持ちになった。 そして僕の目の前から彼が消えた。東京に引っ越したのだ。 普通の受験生だったら、友達が受かっても、目の前から消える程環境は変化しない。しかし僕達は違った。彼はもう別の世界に行ってしい、会うこともできないのだ。 本当に「差」がついた。
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