神戸大学1年目(1999年)

神戸大学2年目(2000年)

巻末コーナー

2、夜間オ−ルスタ−ズ!A

ただここでも言い訳が一番おもしろかったのは、IQだった。 「編入はどうしたの」と僕が聞くと、彼は「やめた」という。 その大きな理由は、「編入なんて簡単だから、そんなことよりももっと別の試験をやっているよ。レベルが高いことしようよ」というのだ。 彼は現在「司法試験」を勉強しているらしい。司法試験合格によって、「自分は夜間だけど、司法試験に受かったんだ。すごいだろう」と言いたいのだろう。

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確かに編入試験はそこまで難しくはない。一般の入学試験に比べると簡単だ。教科数も英語と論文だけである。だからこそその気になれば、真っ先に手にできる勝利だ。「夜間」から抜けだし、堂々と自己紹介出来るブランド大学生になれる。

ではどうして「編入」をやらずに、それより100倍くらい難しい「司法試験」などに手を出すのか。司法試験などは偏差値70の東大生でも苦戦するような、最難関の試験である。

答えは簡単だ。彼はほんの少しの勉強も出来ないのだ。だから「編入」のわずかな勉強でさえ辛くて取り組めない。そんな自分をごまかすため、受かりもしない司法試験を、"一応"目指しているのだ。受かるためにやっているのではない。「そんな難関を目指しているんだよ、俺は」というブランドを、手にするためだけにやっているのだ。

世の中にはこういうことがよくある。司法試験や官僚の試験といったハイレベルな場では、「記念受験」という人達が大半である。彼らは「受かる」ために受験するのではなく、「受験した」という証拠を得るために、やってくるのだ。「あぁそんなレベルの高い試験を目指してたんだ。すごいね」と言ってもらうために受験するのだ。

本当に些細なブランドだ。しかし少しの勉強も出来ないIQにとって、この些細なブランドにすがりつくしかなかったのだ。編入をすれば楽になる。しかし勉強はイヤなのだ。それに編入はやればそこまで難しくないだけに、「受かること」が求められてくる。「受かる」「落ちる」がリアルに分かってしまう。勝負することになる。傷つく可能性も出てくる。

ところが司法試験なら、「絶対に受からない」という結果がやる前から分かっている。だから勉強なんかしないでもいい。ただ「目指している」という、簡単に手に入るブランドがあればいいのだ。

司法試験合格、これは受験の何倍もの努力が必要だ。だからこそ受験である程度頑張れなかった奴は、ほとんど受かるなんて事はないのではないか。事実、合格者のほとんどは偏差値の高い一流大学出身者ばかりだ。

「学歴」とは「努力出来るか、出来ないか」の基準でないかと僕は思う。だから偏差値の高いヤツは、努力出来る。努力すれば様々なことが、自分のものになる。そういう風にして、彼らは一歩一歩階段を昇り、最終的に「司法試験合格」を手にするのだろう。

もちろん「学歴」なんか関係なく、司法試験合格出来る人達もいるだろう。ただそういう人達は、相当の心がけと「絶対受かる。そのための死ぬほどの努力をしてやる」という熱意がなければならないだろう。

僕はIQもそのタイプだと思いたかった。しかし違った。彼は大体2ヶ月程で、「司法試験」から「公認会計士」「国家一種試験(官僚採用試験)」「国税調査官試験」ところころ目標が変わっていったのだ。その度に「司法試験なんてやっぱつまらない」とか、「官僚試験なんか簡単。目指す価値なんかないよ」だとか、「口先」が先行し、僕を失望させた。 しかも彼はその度に高い月謝を払い続けて、すべてムダにしていた。これではとても「IQ160の天才児」とは信じられないだろう。

彼はもう「コンプレックス」の渦の中に飲み込まれていた。

「夜間」という生活の中で、彼らのコンプレックスはさらに加速する。しかし最後まで行動は一切起こさなかった。そんな彼らだからこそ、僕は全員にとって「敵」と見られた。そういうことが大きな刺激となり、僕を異常な方向へと駆り立てていくのだった。

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