神戸大学1年目(1999年)

神戸大学2年目(2000年)

巻末コーナー

9、驚異の模擬試験ビラ!、、10月

次の日の朝、僕はサ−クルの「ロング」という昼間の神戸大学生からの電話でたたき起こされた。「あれ、オマエだろう!学校が大変なことになっているぞ!」 彼の声は興奮気味だった。しかし寝ぼけている僕には、彼が何のことを言っているのか分からない。彼は繰り返した。「早く大学に来い!早く!」と。

大学に行ってみると、驚くべき光景が広がっていた。ビラが貼ってある場所には、黒山の人だかりが出来ていたのだ。予想もしないことだった。

普通、大学には様々なビラが貼ってある。サ−クルの勧誘チラシやら、思想団体のメッセ−ジなど、大量に貼ってある。これはありふれている風景なので、誰も足を止めて、それぞれのビラを見たりはしない。

ところが、この「模擬試験」ビラでは話が違った。誰もが通った受験の成績表だ。しかも「夜間」のものである。さらにその数字は驚異的なもの。学生全てがこれに、強力に吸い寄せられた。食い入るように見入っている。「受験なんて終わったよ」こういう勝者達でも、興味津々だった。

僕はてっきり、「へぇ」ぐらいで、流されるもんだと思っていた。誰も関心など示さない、そう考えていたが、大きくその予想はくつがえされる。

その人だかりの側に行くと、「何だこれ?」「夜間が受けたらしいよ」とざわめきあっている。「こんなくだらないものに・・・」とク−ルを装いながらも、我慢できないのか、目を凝らして眺めている。挙げ句の果てには、教授までもが興味深げに立ち止まった。



大学中ありとあらゆる所で、「模擬試験ビラ」の話題がもちきりだった。食堂で勉強していれば、隣に座るほとんどの学生達が、「見た?」「見た!見た!」「何だあれ?」「何でこんな事するんだろう?」など、ビラ事件で盛り上がっていた。中には「俺は昔、偏差値がこうだった」とか思い出話に花を咲かせる者、「あの成績表は、英語がどうだ、数学がどうだ」と、ご丁寧に分析までする者までいた。もうみんなが夢中である。

大学生活はとかく暇だ。そんな彼らにとって、「偏差値ビラ」は最高のスパイスだったようだ。「そんなに偏差値が大好きか」、僕は強く確信した。ビラに対しては、もちろん賛否両論あったが、平均して「こんな事するなんて、気持ち悪い。だけどすごい」というのが、昼間の連中の意見だった。 昼間の連中は、一応受験の「勝者」だ。だから余裕があるんだろう。

ところが、夜間では話が違った。誰もが認めざるを得ない成績を叩き付けてやった。しかも「夜間」がだ。昼間の連中の評判をくつがえしてやった。そして僕は受験を正々堂々戦うことを、宣言してやったのだ。だから僕は、夜間の連中がほめてくれる、もしくは「あの斎藤が・・・すごい」と言われると思っていた。中には僕と同じく、自分のコンプレックスを認め、戦いを決意するものが現れる、とまで思っていた。 しかしとんでもなかった。

クラスに意気揚々と入っていくと、まずは「ヒルマ」が駆けよってきた。そして怒りに満ちた声で、「何であんなことするんだ!くだらない!何が受験だ!夜間の恥だ!」と吐きつけてきた。何を言ってるんだ、夜間がバカにされているのは、オマエでも分かるだろう!逆に評判を上げてやったのはこの僕だぞ、こう怒鳴り返してやりたかった。ただ僕も大人だ。ここは抑えた。

そんなにくだらないなら、無視すればいいだろう、イチイチ構うなよ、僕はこう言った。 すると彼の顔はみるみる引きつり、最後にこう言ってのけた。「何が偏差値80だ。何にもすごくないぜ。そんな数字でイキがるなよ」さすがの僕でも、これにはキレそうになったが、その怒りを通り越して呆れていた。もう彼らには何も伝わらないのだ。IQは「こんなの誰でもとれるじゃん。サイトウはバカだ」と繰り返し、僕の悪口を広めはじめ、未だ状況は変わっていない。いや、むしろ以前より状況は悪化した。

その日、昼間の学生と違い、夜間の学生には余裕が無かった。 ビラの周りに黒だかりに集まり、興味津々なところは昼間生と変わらないものの、そのビラに口汚くののしっていた。誰もほめたり、すごいなんて言ったりする者はいない。 「何が受験だ、くだらない!何でこんなことするんだ、バカ!」こればっかりだ 。僕は思わず言ってやりたかった。 去年のバクダンにしてもそうだ、「バカだ、クサイ」と言われているのは、オマエらの方なんだぞ、と。

僕は一躍夜間の中では有名人になった。いや、全員が敵になったと言った方が、良いのかもしれない。名前は知らなくても、教室に入れば全員から注目された。決して良くは思われていない視線だ。中には睨み付けている奴もいる。

僕はビリビリとこの肌で、自分一人抜け出した感覚を感じていた。 彼らはとても元気だった。何故なら僕がとてつもない成績を出しているとはいえ、まだ夜間にいるからだ。彼らは全力をもって、僕を止めにかかった。 「ヤツを外に出して、勝者にしてはいけない」、そんな意識だ。

僕がその日大学を帰る頃、IQ、ヒルマ、イガ、その他のコンプレックス連中が一同に集い、僕を待ち構えていた。 そして僕の目の前で、嫌らしい笑みを浮かべながら、こう言い放ったのだ。 「こんなのたかが模擬試験だよ、くだらない。大学に受かったわけじゃない!こんなビラ、全部剥がしてヤルよ。何にもすごくない!」。 彼らは僕達の模試ビラを、ことごとく剥がし始めた。「正義の味方」になったつもりか、彼らは得意満面だった。

僕は黙って引き下がるしかなかった。シンジさんはこの話を聞き、「ますますここに居たくなくなりました」とこぼす。絶望がさらに深まっていったのだ。僕は怒りに満ちた。

昼間のヤキソバは僕の成績を見て、「こりゃすごい、オマエはすごいんだな」と認めてくれた。さすが勝者の余裕。ここの成績では負けても、天下の神戸大学生だ。人生では負けてはいない。イチイチこんな些細な勝負に目くじらは立てない。またサ−クル中の評判も一変した。良くは思われないものの、「タダ者ではない」という評価になった。

しかし夜間は全然違う。口で言っても、分からない。ところが体で分からそうとしても、それでも分からない。 とんでもないヤツを怒らせてしまった事を、彼らは気付いてはいないようだ。 僕は決心した。彼らを後悔させてやるまで、僕は敢えて戦ってやる。もう止められないし、止まらない。

関連リンク

リンクタイトル
リンク先の説明文など・・・。
リンク先のURLとか

←前に戻る | ↑このページの一番上へ| 次のページへ→

管理人コーナー

旧管理人サイトーさんや新管理人の紹介や近況コーナです。

その他

このストーリーに関連するサイトや意見交流を図るコーナーです。