神戸大学1年目(1999年)

神戸大学2年目(2000年)

巻末コーナー

17、「こんな人生なら、もうやめだ・・・」、2月

入試直前まで家にこもって勉強し続けた2月19日。夕方に僕は神戸を出発した。 「ここには二度と帰ってこられない」、そう噛み締めると僕は新幹線に乗り込んだ。車窓の景色は暗闇に包まれていた。



東京の実家に着き、早めの床に就く。僕の心臓が高鳴っている。明日から連続で4日間、試験が続く。最後の勝負だ。

最初の一発目は慶応大学のSFC。過去問題では確実に9割以上は取れる。「分からない」なんて事はまずない。受験者対象の模試では8位。シンジさんが繰り返した。「その成績は神の領域だ」と。

受験は確かに運もある。成績の思わしくない奴が、奇跡で受かったり、逆に確実と思われていた奴が落ちたりもする。しかし絶対に受かる「神の領域」があるというのだ。それは志望の大学の全受験希望者のうち、成績最上位10名の者を指す。この聖域は「運」など作用しない。

2年前僕が普通の高校生だった頃、模試の成績ランクに上位10名に記されている優等生を見ては、「こいつらは良いよな、落ちることなんてないもんな」と羨ましがっていた。また、どうやればそんな所に行けるのかさえ分からなかった。

その「神の領域」に立って、僕は初めて気付いた。不安で不安でたまらないのだ。やればやる程、力が付けば付く程、僕は不安の極致に追い込まれた。 いくら僕でも、3教科の早稲田ならベスト10などには入る力はない。3教科全部80オ−バ−のツワモノだっているはずだ。上には上がいるんだ

しかし明日のSFCは英語と小論文。同じ方式で、ここより偏差値の高い、大阪外語大には受かっている。正直僕にとって、一番受かる確率がある学部だ。少なくともベスト10には入る自信がある。だからこそ明日決めなくては、「受験全滅」を意味していた。 「良かれ」と思って、SFCを最初にもってきた。今までの成績が僕を勇気づけると思っていた。

ところが事態は全然違った。逆に僕は緊張に呑み込まれた。 一晩中、2年間の苦しみがよみがえり、落ちたときの命を奪われる恐怖が、僕を押しつぶした。睡眠薬を3個も飲んだ。それでも眠れない。眠れればなんでもいいと思い、「カゼ薬」までも大量に飲んだ。「早く寝ないと」、焦れば焦るほど僕はおかしくなっていく。いくら力があっても、究極の集中力を要するSFCの難問だ。万全で挑みたい。去年も試験前は緊張した。

しかし今年はそれをはるかに上回るパニックだった。「絶対に落ちることのない成績」を取った。しかしその栄光が、逆に重くのしかかる。本当に信じられない皮肉である。 「何でなんだ、どうしてなんだ」僕は一晩中唸っていた。夜が明けた。結局一睡も出来なかった。

目は真赤に染まり、叫び続けていたせいで喉も枯れている。「ちきしょう、ちきしょう」僕はそう何度も小声を吐きながら、家を出ていく。何かにとりつかれた様なその格好は、誰が見ても異様だった。

試験が始まった。そこで僕は、ついに全ての限界を迎える。 何も考えられない極限の状況の中で、僕は試験用紙の英文を眺める。いつもはスラスラ読めていたが、今日はいくら読んでも頭に入ってこない。神経がもうろうとしている。「落ちる、このままだったら落ちる」、恐怖が最高潮に達したその時だった。

強烈なめまいがして、世界がぼやけた。そこで全てが終わったのだ。 トイレにかけこんだ僕は、吐いていた。極度の緊張からくる神経的な症状だった。さらに昨晩の睡眠薬や風邪薬の、過多な摂取も災いしたのだろう。胃が痙攣しているのか、吐き気がいつまでも止まらない。

実際1月に入ってから、ストレス性の血便が止まらなかった。健康管理はしていたが、神経の方まではどうしようもなかったのだ。体は悲鳴をあげていたのだろう。ここにきて僕はついに、限界に打ちのめされた。

帰り道、緊張から開放され笑顔がこぼれる受験生の人波の中で、僕は顔をグシャグシャにしながら、泣いていた。結局この日、試験用紙を前に何にも出来なかったのだ。屈辱の何ものでもない。「ここだけは受かる」、その自信が一番のプレッシャ−だった。

よく受験参考書には、「本番前は誰でも緊張するんだ。だからそんなのには打ち勝て!」といったメッセ−ジが書いてある。「誰でも同じように」というが、本当にそうなんだろうか。それはあまりに厳しすぎる話だ。少なくとも僕は、2年と半年の受験には耐えられた。しかし「本番」というその重圧には、耐えることが出来なかったのだ。

32カ月の戦いの結末がこれか、何も良いことなんてないのか、そう思えば思う程、本当に惨めだった。 「こんな人生なら、もうやめだ・・・」家に戻っても、僕は涙を抑え切れなかった。3度目の涙だった。

しかしこれが最後だった。 この最後の涙が、もう願うことすら忘れてしまった「勝利」を呼び込むのだった。そう、ラストシ−ンはついにここから始まるのだ。 「奇跡」が静かに僕に舞い降りた。

関連リンク

リンクタイトル
リンク先の説明文など・・・。
リンク先のURLとか

←前に戻る | ↑このページの一番上へ| 次のページへ→

管理人コーナー


受験地へ安く移動するときは格安バスがおすすめです。 東京⇔関西間が¥5,500〜!

その他

このストーリーに関連するサイトや意見交流を図るコーナーです。



関東⇔関西間の夜行バスが3,900円〜